月別アーカイブ: 2014年4月

若葉

山のコブシ、桜も終わり、若葉、新緑がまぶしい日。
許しを得て、今は無人の家の山椒を摘ませてもらった。
近くも遠くにも人の姿はない。
ただ、ホーホケキョ、チーッチッチ、コロコロと鳥や蛙の泣き声が聞こえるばかり。
高校卒業まで暮らした地である。
かつて、昭和30年代―、
同じ時期に山椒の新芽を摘む人の姿が遠く近くに見えた。田畑にもいつも誰かしらの働く姿があった。
土手の土筆、タンポポをひとにぎり摘むこどもたちがいた。畦や川辺を走るこどもたちの歓声がこだましていた。
いま、この里の小学生は2人だと聞いた。

ここだよ

車をスタートさせてゆっくり進み始めたとき、何か、誰かがおいでおいでをしているような気配を感じた。
多分あれだ、そうに違いない。ちょっぴり心がはずむ。
用事を済ませて2時間後、自宅に戻り定位置に車を止めて、気になった場所へと行ってみた。
やはりそうだった。
わらびがたくさん伸び出ていた。か細い茎にほんの小さな握りこぶしのような塊がついている。
まさか、身の丈10センチのわらびがおいでおいでをするはずがないと一笑されそうだが、小さなこぶしがニギニギをして、おいでおいでをしているように感じた。そう感じた。
鶯の鳴き音が日々、うまくなることを思い、朝にはポツリと山肌に見え始めた白いコブシの花が午後にはたちまち点々と広がっていく光景に目や耳が敏感になっているので、小さなわらび群がおいでおいでをしているように感じられたのかも知れないな~。
小さなわらびを小さな籠にいっぱい摘んだ。

こどもたちの作品展

今年になってから展示会用の作品を書いてきた。書くのはわが家に通って来ている小学生たちである。
日頃はマス目や罫線のあるノートに書いているが、いったんノートは閉じて、さまざまな紙と筆記用具を準備、好きな紙と筆記用具を選んで書かせた。
原稿用紙、ハガキ、大小のサイズにカットした厚手の紙、100円ショップで求めたかわいい絵柄のメモ用紙など。書く道具は鉛筆、カラーペン、クレパス、筆ペンなど。
3年生の男の子たちは原稿用紙、短冊形の紙などに次々と書いていく。
川柳のような俳句のような五、七、五の句も作った。
20歳になった僕へ、というメッセージを書いたりもした。
次から次へと書いていく。何を書こう、どうしようなどの躊躇もなく書いていくのがなんともうらやましい。
1年生、2年生の女の子たちは、たくさんのカラーペンや色のついた紙を前にして、作文ならぬ絵を描くのに熱中しだした。
漫画に登場するお姫さまのような絵をひたすら描き続ける。
作文教室のこどもたちなのだから、絵にことばや文章を付けようよ、と促す。
作品展への案内状も各人で作った。
春休み中の1週間の展示会。
ご家族に見ていただいた。おじいちゃん、おばあちゃんも来てくださった。
「 ここではリラックスした作文を書いています 」と言ってくださるおかあさんがおられた。
やさしいおかあさんへ、と伝言を書かれたおかあさんは、涙が出るとおっしゃった。
こどもたちの作品展の準備は楽しかった。次は自分自身の作品展である。気分がはずまない。
ためらうことなく鉛筆を走らせ、カラーペンで塗っていたこどもたちに恥ずかしい。

椎茸

4人の方からあいついで椎茸をいただいた。たくさんいただいた。どなたも自家栽培の椎茸である。
一晩中しとしとと降っていた春雨と翌日の陽気にむくむくと育ったのか、手のひらサイズのもの、肉厚のもの、どれも採りたて、おいしそう。
さて、どうしよう?
椎茸は煮ても焼いても、メインにそれだけ食べても、刻んで餡のようにしても他の食材の味を引き立ててくれる優れものである。
が、椎茸、椎茸、あまりの量に、椎茸を食べ尽くすまでの献立を思い付かない。
干し椎茸もいいけれど、林の中のこの住まいで上手に乾燥させるのは難しいことをかつて経験した。
少し残してあとは佃煮にしておこう。
椎茸を刻み、昆布を刻み、昨年摘んで冷凍してある山椒の実も入れて、クツクツ煮て仕上げたら長く椎茸を味わえる。
刻んだ椎茸は大鍋にいっぱいになった。
煮始めたら泡が出てくる。しつっこく泡立つアクをすくいとり、すくいとり、砂糖、味醂、酒、醤油などで調味する。椎茸と調味料の香りが部屋に満ちる。
4軒の家の軒下で、畑で、林の中で育てられた椎茸が、ひとつの鍋の中でトロリと煮詰まった。

白い花

氷雨ならず春の雨が一晩やわらかに降っていた。そのせいか、前日には見なかった白い花が向かいの山に点々と見える。
コブシと言いたいがタムシバという名前なんだそうです。
なんとも語感が気に入らない。ずうっと、あれはコブシだと親や村の老人にも聞かされていた。
青空の下、山に咲く白い花はコブシでなければならぬ…。あの名作歌謡、北国の春で春待つ人々の心に鮮やかな印象を刻んでいるのがコブシである。
この山里でも毎年3月終わりの頃、まずポツリポツリと山肌に白い点が現れ、翌日にはバラバラと白い布を撒いたように散らばっていく。
咲いた、ようやく春が来た。今年は例年よりいっそう山が白い。いや、今年は少ないようだ。必ず里の人々の話題になる。
いつの頃だったか、この町の広報誌で、あれはコブシにあらずタムシバです、との解説を読んだ。
コブシと思い続けてきたもので、タムシバですと解説されても、ああ、聞きたくなかった…と思うばかり。
図鑑などによれば、タムシバは、” 噛む柴 ”、葉っぱを噛むと甘いのだそうだ。タムシバよりもカムシバのほうがまだマシか!?
ニオイコブシという別名もあるようだ。決めた!これにしよう。
これからいちいち、コブシと思っていたけれど実はタムシバという名前で、などと注釈言い訳をせず、コブシが咲いたと言うことにする。
コブシが咲いて、山里に春が来た。
丘の上の温泉の露天風呂の縁では、温泉の熱に温められてか、里よりも早く桜が咲いていた。

椿

あたり一面冬枯れの中で晩秋から赤い花を咲かせ続けてきた山茶花が、ついに全ての花を落とした。
代わって椿の花である。
ピンクの花びらが円く重なって毬のような花を付けるのと、ぼってりと大きな赤い花を咲かせるのと、あと1本、赤い花と白い花を付ける木がある。
わが家に珍種の椿がある、と早合点をしたものだった。
園芸店で求めたとき、2本の木だと気がつかなかっただけのこと。
よく確かめもせず、くっついた状態で植え込んでしまった。
30年たって丈も高く伸び、こんもりと緑の枝葉を広げた中から赤い花、白い花が覗いている。
1本の木にこういう風に紅白の花が咲くのですか?
今年も問われた。