月別アーカイブ: 2013年7月

夏の朝

4時半、ひぐらし蝉に起こされた。
ひぐらしだけの斉唱から、やがてニイニイ蝉も加わってニイニイ、カナカナ…にぎやかな朝の歌が響き渡る。
ひぐらしは空が明るくなると鳴き止む。日がな一日鳴き騒ぐニイニイ蝉やアブラ蝉とは異なり、未明に鳴き、空かき曇れば夕立の急襲を告げて鳴き、黄昏が近づくころに鳴く。
夏本番ともなれば、ひぐらしに目を覚まされても二度寝ができるが、今朝はひぐらしが鳴き止むころにムクリ起き出した。
雨戸を繰れば網戸に蝉が4匹くっついていた。つまみとって放すとジッと鳴き、ミッと鳴いて飛び立った。
気まぐれに早朝の林を歩く。
色褪せた紫陽花を切り取ってみる。付くか付かぬかわからないけれど、プスプスと土に挿す。
こんなふうに挿しておくと、たまーに根付いて花も咲く。
きちんと資料を読んで挿し木の時期、肥料のことなど上手に世話をしてやれば成功率も良いのだろうが、気まぐれ気ままにクシャクシャと挿すだけなのでたまに育ってくれるだけ。
早朝のことでさすがにひんやりとして気持ちが良い。
まだ7時前。
近所のFさんが来られた。いつも玄関の取っ手に野菜の入った袋を掛けてメモを入れておいてくださる。今朝に限ってわたしが早起きして戸外に居るのに驚かれたようだ。
手渡された袋には、胡瓜、ピーマン、ミニトマトが入っていた。
朝7時過ぎには近隣の人から電話がかかるし訪れもある。
夏場は7時よりさらに早くなる。

その差、58。

塾のような進学指導はできません、とお断りをしたうえで、小さなこどもたちといわば作文ごっこのようなことをしている。
幼稚園児だった子は、初めのころ、もの字、しの字、まの字などがひっくり返っていた。たの濁点、はの半濁点は左肩についていた。
いま、1学期が終わって、しっかりと字がかけるようになった。
1年生になってピアノを習い始めたとテキストを持って来て見せてくれる。
2年生のNちゃんは以前から書道を習っていて、筆圧もしっかりとした美しい字を書く。わたしよりも格段にうまい。
3年生の男の子たちは、最近、ユーモアたっぷり余裕のある文章も書いてくれる。気分がのれば、であるが。
Jくんは電子辞書をバッグに入れている。作文の途中で漢字がわからないときはまず、わたしに尋ねる。もしも一点一画をまちがえて教えたら申し訳なく恥ずかしいので、辞書を繰って正しい漢字を示そうとする。彼は、あっ!とばかりに電子辞書を取り出す。わたしよりも速く、正しい漢字を引き出したいらしい。彼は漢字に興味があるようで、学年で習うより以上の漢字を知っていて、作文の中にいかすことができている。
ときどき、ちょっと見にはほとんど似ているけれど、ん?何かひっかるという漢字を書く。そんなとき、恥ずかしながらわたしの方に自信がない。目の前で辞書を繰る。この先生たいしたことないなと思ったかどうか、たまに試してくるようなところがある。かわいい挑戦を受けてたっている。
3年生の男の子のおかあさんから電話があった。
「明日、誕生日なので作文が終わるころにケーキを届けます。みんなで食べましょう。このこと、こどもにはナイショです。言わないでください」
作文のチェックをしているとTくんのおかあさんがケーキを両手に掲げて来られた。
ドッキリのイベントに歓声があがった。さらにドッキリだったのは、ケーキにはわたしの名前も書いてあったこと。
電話のとき、明後日がわたしの誕生日なんですよ。ずいぶんの年の差ですけれど、なんて笑ったのだった。
それが、丸いケーキに名前が書かれるなど初めてのこと。
酒場で祝われたことはあるが、丸いケーキが目の前に置かれたことはなかった。
小さなこどもたちと、そのおかあさんたちに幸せな誕生日祝いをしていただいた。
Tくん9歳、わたし67歳。  

木かげ

両腕をまわしても指がつなげないほどの木々の中、小さな家に暮らしている。
密生する枝葉に通り道をふさがれてか、家の中へうまい具合の風が入ってこない。戸外の木かげのほうが涼しい。
葉を揺らす風に誘われ外へ出れば、蚊に刺され、ブヨが目に入り、蟻が足を這い上る。
カサリと足元の枝が鳴れば、蛇か?と身構える。身体をきらめかせトカゲが走る。
「緑がいっぱい。うらやましいお住まいですねー」訪問客が口々に言ってくださる。こんな暮らしにあこがれます、と。
そういわれる多くの方々が蛾におびえ、クワガタにも蝉にもさわれない。
「あ、蝉がいます」と頭上の木を見上げるのはいかにも楽しげ。
立ち話をしながら、網戸にしがみついている蝉をつまんでポイと林の中へ投げ込んだら、「わっ、さすがですねー」とおっしゃった。

暑くなる。

梅雨が明けて3日、この夏初めてのひぐらし蝉を聞いた。朝4時半、まだ薄暗い時間。
カナカナカナカナ、輪唱が雑木林を巡っていく。
ひぐらし蝉と言えば夕方頃に鳴いて、ようやく灼熱の一日も終わる頃を告げる蝉だと思っていた。
ところが、ひぐらしは朝にも鳴く。
夜明け前のカナカナカナカナを知ったのはずいぶんと人生の歳月を重ねてからのこと。
周りの大人はあたりまえのことと思っていたからか、とくに教えてはくれなかった。
こども時代、夜明け前に目覚めるなんてことはない。夏休みのラジオ体操にも、大声で起こされて寝ぼけまなこで駆けつけるのが常であった。
ひぐらしの鳴くのはラジオ体操よりずうっと早い。
夜明け前のひぐらしが耳に届くようになって、カナカナカナカナひぐらしが鳴けば涼しくなりそうという思いが変わった。
今日も暑くなるよーと知らせているように聞こえるのである。
太陽が昇ればニイニイ蝉の合唱が始まる。
玄関を出れば地面に小さな穴が。これから毎日のように穴の数が増えていく。覗けば目玉に合うこともある。
傍らの木々には脱け殻が、そこにもかしこにもくっつき始める。
ますます暑くなる。

バリ、バリ、バリ

バリ、バリ、バリ、バリ、
長い金髪、両肩丸出しタンクトップ。むき出しの肌はしっかり焦げ茶色。
オートバイで疾走しているのではない。電車の中である。こちらは優先座席。あちらとは離れており、顔は見えない。
いまどき珍しいほど大きな声で電話中である。聞きたくもないけど、バリかっこいいだの、バリやばいだの、やたらバリバリバリバリいうのが癖らしい。
うるさいが、吹き出しそうにもなる。午前9時、車内の座席はほぼ満席状況である。誰の目も耳も全く気にならないらしい。どうやらこれから学校へ行くようだ。
隣の車両から友達らしき女性がやってきた。
先ほどから、バリバリ会話の相手のようだ。電話で誘導されて来て、長い金髪の女性の隣にドスンと座る。大きなバッグで席が確保されていた。
こちらも負けず劣らずの金髪、超ミニのパンツである。
数学ができないという話が聞こえてくる。高校生か? 試験中か? 
降りるときにチラリ、いや、ジロリとなったかもしれない。ふたりの顔を見た。長いまつげをつけ、メイクが濃いが、幼い顔つき。高校生かなぁ?
どこの高校?