やれやれ…

昨今は田舎のこどもたちも蛾におびえる。
どこの家にもエアコン完備で、日々窓を開け放つということがなくなって、家の中に蛾が舞うこともないからか?
小学生が数人、我が家に来ていたとき、一匹の蛾が羽を休めていたのに気づいた。やや大きめ、羽にくっきりと鮮やかに黒い縦じまがはいって、見ようによっては、きれいでもあり、妖しげでもあるような。
声をあげたのは男の子であった。
窓から追い出すのか、それとも叩きつぶすのかとも思ったら、悲鳴である。手も何も出せそうにない。他の誰かがどうにかするかと見ていたけれど、動き出す者はいない。
わたしは、といえば、蛾の一匹や二匹、家の中に居ようがどうということもない。
ただ、台所で調理中にバタバタ飛び回られると羽の粉が飛散するし、匂いにつられてか蓋をはずしている鍋の中に落ちたりする。それが迷惑なので、窓の外へ追いやるか、パシンとつぶしてしまう。
かつて、といってもわたしが小学生だったころといえば、もう半世紀以上も昔のことになる。
この里界隈の家々に扇風機もなかったころ。
玄関も窓も縁側の紙障子も、みんな開け放されていた。部屋のあちこちに〇〇百貨店、〇〇薬局などと印刷された朝顔柄や花火の絵の団扇が落ちていた。
蛾も蚊も蛍も、クワガタだってツバメだって出入りしていた。
突然鳴き出す夜の蝉はうるさかった。
神棚に止まって寝ていてくれればいいものを、ツバメも急に飛び回ったりするので、ほこりや煤がバラバラ落ちてきた。
なぜか、そんな家でムカデに咬まれたことがない。
赤ん坊だって、畳の上に薄い布団を敷いて寝かされていた。
開け放された戸、紙障子の外に緑の稲田が広がり、風が縁側から家のなかを吹き抜けていた。
いま、この里の家の多くに縁側など無い。紙障子の外側にもう一枚ガラスの戸が入っている。そしてどの家にもエアコンがある。
昼間はともかく、夜に開け放された窓などあろうか?近年は防犯上のこともあろうが…。ピタリとカーテンが引かれた家ばかりである。
家の中に入り込んだ蛾は珍しいのか、こどもたちの悲鳴であった。
静かに羽を休めている蛾にさえ悲鳴が上がるようでは、飛び立ちでもすれば大騒ぎとなりそうで、半世紀前には蚊も蛾もオタマジャクシもたたきつぶして?遊んでいたわたしが動く。
ちら、と考える。
ここで叩き潰すのは、丸かバツかと。こんなことが頭をよぎる。当節、何でもかんでも命をたいせつに!である。エイ!メンドクサイが、ここは善人になってみようか。
蛾は両掌にそっと覆って窓の外へヒョイと放す。
男の子たちが、「スゴーイ!」
やれやれ。

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