寝不足

このところ睡眠不足である。部屋の電気をつけっぱなしで眠ることにまだ慣れない。眩しくて目が覚める。
本来は、部屋の照明は消して枕元のスタンドをうすぼんやり灯した状況で眠るのが安眠の条件なのだけれど、シーズン中は部屋を明るくしたままで眠ることにしている。
何のシーズンかというと、ムカデ出没シーズンである。
凍てつく冬期は人間も縮こまっているが、あらゆる虫たちも穴の中にいるのか世代交代でサナギ状態にあるためか、家の外にも中にも困った虫が蠢いていることはない。
もやもやとまさに山々が笑って春が来て、桜が咲き草が萌え、よもぎタンポポ、つくし、ワラビが一帯を覆い始めると、蟻が蝶が蜂も蛾も這い出し飛び交い始めた。
人も虫もみんなみんなが気持ちの良い季節になった。
草を刈りに出れば、目のまわりをブヨが飛び回り、目の中に入ってくる。咲いた椿に顔を寄せれば、蜜蜂が向かってくる。しつこいブヨにも蜂たちにも悩まされるが、一番困るのはムカデである。
山里のことで、誰彼からムカデが出た、咬まれたの話を聞く。珍しいことではない。
十余年前にこの家に暮らし始めた頃、ムカデが出ようものなら大騒ぎをした。殺虫剤を噴射する、スリッパで叩く、なかなか一撃では仕留められない。
年月がたち、殺虫剤よりもスリッパよりも、少量のお湯をかければ動かなくなることが解った。ムカデがこっぱみじんになることもないし、床がべたつくこともない。
ただ、夜中、暗がりに出るムカデはやっかいだ。
5年も前のこと。
就寝中、額に何かの気配を感じて手で払った。それよりも一瞬早くチクリと痛み。もしやムカデ?飛び起きて電気をつけたら、やっぱりムカデ。
以前にも咬まれたことがある。その箇所は部厚い我がお尻であった。それもジーンズで土間の敷居に座っていたとき。ムカデにも効き目があるという塗り薬を刷り込んだだけでやがて治った。
今回はかばう衣服もない額である。オデコである。ムカデの毒が脳に回ったらどうしようなどと思ってしまった。
救急車のお世話になり、救急車の中で気を失い、気がついた時は病院のベッドで点滴を受けていた。
それ以来、ムカデが出る間は電気をつけたまま寝ることにした。
明るければムカデが出ないというわけではないけれど、暗闇でムカデに咬まれたショックがいまも強くて、シーズン中は暗い部屋で眠れない。
シーズンはまだ始まったばかりである。明るいままで熟睡できるのはもう少し先になる。

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