小春日和に獅子舞が…

「本年も例年の如く11月24日頃に森本忠太夫が御伺い致します」
葉書の差出人は、三重県桑名市太夫在の伊勢大神楽講社 森本忠太夫。
期日指定の3日ほど前に毎年、葉書が届く。

わたしがもの心ついたときから、いや、昔々から、この森本忠太夫という世襲の名前を受け継ぐ一行が、晩秋、サザンカの咲く頃にこの里にやって来ていた。
ヒュルリー、ヒュルーと遠くから、聞き覚えのある笛の音が届いてきたら、胸がワクワクと躍った。獅子舞がやって来た―!
一行は5~6人で収穫の終わった晩秋の丹波路を巡る。
一軒一軒を訪れ、大きな獅子頭を着けた人が鈴を振りながら、門先と家の内で舞う。
小学生の頃は、下校途中で一行を見かけると何軒か付いて歩いた。
自分の集落に来る日が日曜日だったらどんなにうれしかったことか。集落を巡る一行に、こどもたちがぞろぞろと付いていく。
たいていの家では、ヒュルリー、ヒュルーの笛と、テンテン太鼓とカンカン鉦にあわせてほんの数分舞うだけだが、どんな事情でか、他の家の何倍も長く舞うときがあった。
ときには、真っ赤な顔に目玉もギョロリと恐ろしげな獅子頭をかぶっているのに振り袖姿になって、絵日傘をさして、大きな男の肩の上に乗って、シナシナと舞を見せたりする。
一行に付いて廻れば、いつかどこかで不思議な、鮮やかな、面白いものが見られるかも知れぬ。
田んぼの刈り入れが終わってサザンカが咲く頃にやって来る獅子舞は、とてもとても楽しみだった。

山里暮らしを始めた年の秋、近くの集落で一行を見かけた。何十年ぶりかに見る情景が懐かしかった。
一行は、初めての家には訪れてはくれない。ぜひともわが家を訪ねてほしい、と頼んだ。
翌年から葉書が届くようになった。
当日留守にしなければならぬ場合もあり、天候のかげんで日程が変わることもあり、出会えぬ年もあったが、今年は変更も無く、紅葉の美しい小春日和の日に、ヒュルリーと笛が聞こえてきた。

獅子舞が去ると、やがて里に冬が来る。

小春日和に獅子舞が…」への1件のフィードバック

  1. Zinitiro Shirai

    今日のこの文章はいいなぁ!と言うほか言葉が出て来ない。子供の頃の思い出に近い
    ものや、わからなくてもウン、ウンと頷くだけで終わりたい。時々、文章の素晴らしさに
    出会うからまたジッと覗く日を待っていたくなる。

    返信

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